このままでは、久遠が玲くんに押し勝ってしまいそうだ。
だからあたしは――
「ねえ、久遠。せめて皆に挨拶をしていきたい…」
「オレが言っておく」
あたしの意向を、久遠は断固拒否する。
どうして此処まで頑(かたく)なに、帰そうとするのだろう。
「でも…」
嫌な予感がするんだ。
このままヘリに乗ったら、後悔するような…そんな予感が。
ナニヲ?
ダレニ?
「運命の環は動いているんだ。
だから…行け、せり」
「何か…やだ。
今生の別れみたいな気分で…」
「そんな別れにしたいのか、せりは」
あたしはぶんぶんと、頭を思い切り横に振る。
「せり、また――
"約束の地(カナン)"に来い」
久遠は、そう言って――
「5日後――
オレに会いに来い」
微笑んだんだ。
綺麗な綺麗な…天使の微笑。
――大丈夫か?
それはあたしが久遠に初めて会い、恋したあの美しい笑顔で。
――煩いな、黙れよ。
いつも無表情で…
つんとすました顔のあの久遠が――
優しく、柔らかに…
誰もを魅了する微笑みを。
それが何故だか…
酷く心が締め付けられたんだ。

