「芹霞」
両頬に両手を添えられ…顔を無理矢理玲くんに合わせられた。
真正面、至近距離。
端麗な顔の、ドアップ。
やばいやばい、あたしの鼻。
南無阿弥陀仏…
南無阿弥陀仏…。
「本当?」
「………」
反対の角度に傾けられた麗しいお顔に、思わず見惚れた。
「本当!!?」
強い語気に押されて、あたしは思わず後方に仰け反る。
「は、はいッッ!!」
そう答えると、玲くんは目を伏せ1つ大きな溜息をついた。
そして鳶色の瞳を開くと、あたしに合わせる。
「じゃあ、芹霞の口で言って。復唱して」
「へ?」
「『うんうん』は"やっぱり"適当だった? "やっぱり"その場凌ぎ?」
"やっぱり"をやけに強調させて、玲くんが拗ねる。
心外だ。
ダブルの返事だと受け取ってもらえていないようだ。
「ち、違うよ。あたしもちゃんと考えて…」
そう抗議すれば、
「じゃあ言って。芹霞の口から」
じぃっと玲くんはあたしを見る。
「言え…といわれても、何からどういえばよいのか…」
すると玲くんは溜息をついて、そして微笑んだ。
「じゃあ繰り返してね?」
「うん?」
「"神崎芹霞は、愛の告白をしてきた紫堂玲を避けず、遠ざからず、拒まず、一緒に楽しい時間を過ごします"」
「へ?」
「"へ"じゃないの。繰り返して」
何でしょうか、玲くん…"えげつない"。
「"神崎芹霞は、愛の告白をしてきた紫堂玲を避けず、遠ざからず、拒まず、一緒に楽しい時間を過ごします"」
そう…少しびくびくしながら、鸚鵡返しに…だけどはっきり言うと、玲くんは嬉しそうな笑みをこぼし、続けて言った。
「"神崎芹霞は、紫堂玲のことを【優しい家族】の一員ではなく、自分を愛する1人の男として強く意識し、恋愛対象として真剣に考え、この"お試し"では本当の恋人のように愛し愛されることを誓います"」
「………」
玲くん…恥ずかしくないのかしら。
「……言えないの?」
"えげつない"玲くんが目を細めた。

