「お前は…生きているだろう、紫堂櫂。
お前は何処にでも行ける体もあるだろう?
何度も何度もやり直しが出来る恵まれた環境にいて、お前は何が不満なんだ!!!
これ以上――
オレを失望させるな!!!」
久遠は…
激情の男なんだろう。
何も執着しないフリをしていただけ。
興味がないフリをしていただけ。
だけど…久遠は逆なんだ。
いつもいつも、心に熱さを秘めている。
それを出そうとしないだけ。
生きていない。
ただそれだけの理由で。
その時、足音がして桜が飛び込んできた。
「櫂様に何を!!!!?」
状況を見て、久遠が櫂をぶん殴ったのが判ったんだろう桜が、久遠に詰め寄り、抗議に怒鳴ろうとした。
「桜…いい」
それを制したのは櫂で。
くつくつ、くつくつ。
そして櫂は笑い出したんだ。
それはいつものような不遜な笑いのようでもあり、嬉しそうでもあり…泣いているようでもあり…。
全ての感情を超越したような複雑な笑いを少しすると…
櫂は…俯いていた顔を上げたんだ。
「世話を掛けた」
そして立ち上がる。
………。
これが…
今まで子供のように泣いていたあの櫂か?
毅然とした漆黒の男は…
どこまでも孤高で美しく…
威風堂々としていて。
「礼を言う。
――酔っ払い」
久遠に微笑んだその顔は…
男の俺でも見惚れる程のものだった。
「生きている限り――
俺にはすべきことがある。
そう…緋狭さんにも言われていたはずだったのに」
「緋狭姉!!!?」
櫂は頷いた。
「久涅が現われて俺が暴走した時――
俺の意識が、現実逃避に深層心理に逃げ込んだ時――
そこに居た緋狭さんに怒鳴られた」
"私を失望させるな"
「久遠と同じことを言われた」
そう笑ったんだ。