「ねえ――」


その時、芹霞から声がした。


「玲くんに対する散々のその罵詈雑言。出てきた"お試し"から推測するに…娘ってあたしのこと?」


それ以外に、誰が居るっていうの?


必死に振り向かせたい相手は、

君以外に誰が居るっていうの?


「それ以外に、玲は誰と"お試し"とやらをしているのだ?」


久涅が…代弁してくれたのは複雑な気分だった。


「だったら!!! 何で玲くんがフラれているっていう言い方するの!!!? 

玲くんは…素敵な人だよ!!??

誰が玲くんをフるって!!!?」


「は?」


当主が訝しげな声を出す。



カラーン。



「フラれたのはあたし!!!

こんなこと言わせないでよ!!!

玲くんはね、好きな人がいるんだから!!!

何も知らないのに、好き勝手なこと言わないで!!!」



「は?」



僕から、変な声が出た。


好きな人って誰のこと?

僕…二股なんてかけていないよ?



カラーン。



「玲、お前…その娘以外にも…」


「違いますッッッ!!!」


当主の冷ややかな問いに、即座に否定した。


ありえない。

僕が芹霞以外の女を…いつ好きになったって?


「芹霞!! 何を勘違いしているか判らないけれど…僕は…」


「いいよ、玲くん。玲くんは…凜ちゃんが好きなこと、あたし判っているし。

だけど久遠のことは恨まないでね。久遠だって悪気があるわけじゃ…んーんー!!!」


風が吹いた…と思ったら、久遠が芹霞の口を手で覆ったらしい。


久遠の体は大丈夫なんだろうか。


爆発と同時に倒れた久遠。


それは魔方陣への刺激が起因なんだろう。

そこまで久遠と魔方陣は、密接な関係があったんだ。


魔方陣を壊す黒い塔だと見抜いていたならば――

まだ先に手の打ちようもあったものを。


久遠まで道具に使わせたくない。


そうは思うけれど…

この時の僕の頭には、芹霞の言葉が強く回っていて。


凜…だって?


更におかしなことを言っていなかったか?


何でそこに久遠が…関係する?



「はははははは!!」



大笑いを始めたのは久涅だった。