紫堂当主は…憎らしい程悠然と玲と桜の方に歩いてくる。

肩から芹霞を下ろした久遠が、間を割るように前に進み出た。


その毅然たる姿は、腐っても良家の当主の貫禄だ。

頼もしい…なんて思っちまう。



「久しぶりだな、各務久遠…。

会ったのはたった一度なれど…

まるで変わらぬ姿は、驚嘆に価する」



先に口を開いたのは、櫂の親父。



「…ふっ。意外に耄碌(もうろく)していないものだな、紫堂当主。

オレの記憶では、もっと若かったはずだがな」


遠く離れていても…互いが腹の底で牽制しあっているのが伝わってくる。


決して――

好意的な感情で互いに接してはねえ。


むしろその逆。


「ああ、あれは"約束の地(カナン)"が出来る前。私が紫堂の当主に成り立ての頃。

それは老けるだろう。

まともな人間ならば――」


くつくつ、くつくつ。


それは…永らえる久遠のことを卑しんだかのように。


「随分な挨拶だな、人の領地で」


久遠は何も気にしてないとばかりに、軽く返す。



「久涅を寄越して"約束の地(カナン)"をボロボロにさせて…当主自ら乗り込んできて…そして何が欲しい? レグが隠匿したという金か?」


すると親父は笑いだす。


「ほう? 金などあるのか、この地には。初耳だな」


伊達に紫堂の当主をしていねえ。

簡単に手の内を晒さねえ。


「随分と言いがかりをつけるが…何処が"ボロボロ"だ?

こんなに華やかで大勢で賑わっている遊園地で。

スポンサーとして、これだけ大賑わいは嬉しい限りだ。

もっともっと…オーナーとして遊園地の発展に努めてくれ」


くつくつ、くつくつ。



「それより」


突如笑いをやめた親父は…



「玲」



玲を見たようだ。



その口調は…優しさの欠片など何もなく。

玲が如何に冷遇されているのかを物語る。