その時、不意に蘇る。
――僕、紫堂玲は…
「僕を、君の"彼氏"にしてよ?」
――神崎芹霞が好きです。
あれは、何で言われたんだったっけ。
今と同じような、酷く真剣な顔をした玲くんを…
何故あたしは"違う"と思ったんだっけ?
何故あたしは"否定"したんだっけ?
「好きだよ、芹霞…」
玲くんは耳元でそう囁くと、あたしから身体を離した。
「僕を…真剣に考えて欲しい」
そういうと、切なげに笑った。
酷く苦しそうだった。
何とかしてあげたい。
だけどあたしは――
踏み出せない"何か"の制約を感じている。
玲くんは好きだ。
とっても好きだ。
だけど…"何か"に制される。
今までにない奇妙な"ブレーキ"。
ああ…多分それはきっと…
玲くんが紫堂の次期当主になったから、発現したものなんだろう。
そうでなければ、理由が見えない。
王子様の玲くんと庶民のあたし。
仮に本当に付き合ったとしても、先が見える脆い関係となる。
身分が違いすぎる。
それが判らない玲くんじゃないはずなのに。
玲くんには玲くんに相応しいだけの相手がいるはずだ。
あたしは、玲くんと恋を始めてはいけない。
終わりが見える、哀しすぎる恋は嫌なんだ。

