「だからあたし…

玲くんを解放したいの。


だから曖昧にしたくないの」



そして芹霞さんは頭を下げた。


「いい夢をありがとう。

いい思いをさせてくれてありがとう。


あたしは――」


芹霞さんは…一体何を…。


「まだ――

10分あるって言ってるだろ!!!?」


声を荒げた玲様が芹霞さんの腕を掴んだようで。


「君は何も言うな。

頼むから今は。


10分後――僕が言う。


僕からちゃんと言うから…今は…

まだ僕に魔法をかけていて?」


「………」


芹霞さんは何も答えなかった。


「芹霞――…

お願いだから…」


「………」


「今はまだ離れないでくれ」


「………」


「10分後――

僕はちゃんと…

然(しか)るべきケジメをつけるから」


「………」


「10分後に、僕が君を解放するから」


そして長い沈黙の後、


「……判った。

玲くんからの言葉、待ってる。

10分後ね――」


強張ったような芹霞さんの声が聞こえた。


「……ありが…」


謝罪の言葉の途中で、声を詰まらせた玲様は項垂れ…やけに小さい声が聞こえてきた。



「全てが一斉に…

夢のように儚く消え去ってしまう。

これが――…

魔法が解けた"灰かぶり"の…現実か」



「え? ごめんよく聞こえなくて…」


「なんでもない。さあ下に行こう」



こちらに近づく音がして、

私は急いで…階段を下りた。


私は…嫌な予感がしたんだ。


いつもの玲様ならば、櫂様の記憶を戻せないと判った時点で、特権たる"お試し"を破棄なされるはず。

それを自分の戒めとするはずで。


何より――

玲様にとって今でも10分後でも…結果は同じに思われているのならば。

10分間を引き伸ばした意味はないはず。


例え10分いえど――

それを引き伸ばした玲様は、

愛の命を延ばした玲様は――


消える覚悟をされているのではないかと。


櫂様からも、芹霞さんからも、私達からも。


その為の――

最後の夢の時間。


覚悟の為に、恋人という夢の時間が必要なのだと――

そんな気がしたのだ。