「そ、そうだ。く、久遠!!! 言霊で…」
僕の言葉に力がないのなら、せめて強制力を持つ久遠の言霊で…。
「紫堂玲。お前は…言霊というものを、都合良く解釈していないか?」
向けられたのは――
僕を責めるような瑠璃色の瞳。
罪人を裁く――
"断罪の執行人"としての表情を向けられたように思った。
「確かに言霊は…難解な心も操れるだろう。
しかしそれは…
あるべき理(ことわり)の流れを、
人為的に強制逆流させているということ。
それ故に…凶器。
それ故に…禁忌。
オレは――
せりには使いたくない」
「……!!!!」
ああ…
僕は何て浅はかなことを聞いたのか。
久遠が言霊を使って何とかできるのなら、
久遠はとっくにその力で芹霞を手に入れようとしているはずだ。
"約束の地(カナン)"から離れぬよう、芹霞を縛れたはずなんだ。
それをしないのは…
久遠が、"心"を大切にしているが為に。
だったら。
だったら他にどうすれば…。
僕の狼狽は止まらない。
「芹霞…」
櫂の声が漏れ聞こえた。
掠れて震えた…か細い声が。
「芹霞、俺……」
耐えきれないというように、櫂が芹霞の腕を掴もうとした時、芹霞はパシンとその手を払った。
「あたしはまだ、あんたが玲くんを見捨てたこと許していない」
それは…恨みをこめたような強い語調。
芹霞は判っていないんだ。
櫂が…僕を見捨てるのは当然の帰結。
裏切り者は僕で、僕がそこまでにあの櫂を追い詰めたのだから。
だけど…馬鹿だね…。
僕…
芹霞に庇(かば)われるのが、嬉しい…なんて。
僕のことを想ってくれているように錯覚するなんて。
芹霞の優しさを…勘違いしそうになる。
こんな時に。
こんな時なのに。
このまま、芹霞の記憶が戻る術がないのなら、
僕は芹霞を求め続けることが許された気になるなんて…
ああ、なんて酷い僕!!!

