ああ、あたし――
玲くんの"トラウマ"に触れてしまったのか。
モテる玲くんが相手にフられてしまうという、信じがたい過去…それが玲くんのトラウマ。
まあきっと、玲くんに必死に追いかけて貰いたい"彼女"の"賭け"が裏目に出たんだろうけれど…。
だけど玲くんにとってみれば、気分のいいものではない。
むしろ…心の傷だ。
だからこそ、あたしは"約束の地(カナン)"で"お試し"を始めた時から思っていたんだ。
あたしだけは、玲くんをフらず…
玲くんにフって貰おうと。
思い切り遊んで愉しんで、玲くんにとってあたしとの"お試し"が恥にならない…いい思い出となった後、玲くんに…人生初の"フる"という行為をさせて、過去のトラウマから解放させてあげたかった。
そのトラウマがある限り、何だか玲くんはこの先、彼女を作らない気がしたから。
玲くんには幸せになって貰いたいんだ。
玲くんは、"フられる"ような男じゃない。
もっと自信をもって、羽ばたいて貰いたいんだ。
ようやく引き籠りを解消して、紫堂の次期当主になったのなら、尚更のこと…。
「僕は…別に"ふられた"ことは気にしてないし、そんなことで、同情を君に求めていないからね」
玲くんははっきりとそう言った。
「僕だって男だ。僕が夢中になれる程、その相手に僕自身が酷く執着心が芽生えれば、僕だって人並以上の幸せ噛みしめたいし、彼女が益々綺麗になって喜ぶ顔みたい。別に彼女を作っていなかったのは、恋愛が怖いからじゃないんだ。むしろその逆」
恋愛に淡泊だと宣言していた玲くんは、本当は夢中になれる恋愛をしたかったのか。
やっぱり、トラウマを抜け出したいんだと…あたしには思えたんだ。
「ねえ…。僕が、夢中になれる相手と、"永遠"に寄り添いたいと願うのは、何も不思議なことじゃないだろう?」
訴えかけるような鳶色の瞳。
その通りだと思う。
そしてそれはあたしの願うことでもある。
「そうだね。あたしもそういう夢中になれる恋をしてみたいし、諦めて我慢ばかりしていた玲くんに、そういう"運命"の相手が早く現われて欲しいと心から思う。というか、玲くんならきっと現われるよ!!!」
そう微笑んだら…
「さすがに――堪えるね」
玲くんが、辛そうに…目を細めた。

