シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

 
ああ、あたし――

玲くんの"トラウマ"に触れてしまったのか。


モテる玲くんが相手にフられてしまうという、信じがたい過去…それが玲くんのトラウマ。


まあきっと、玲くんに必死に追いかけて貰いたい"彼女"の"賭け"が裏目に出たんだろうけれど…。


だけど玲くんにとってみれば、気分のいいものではない。


むしろ…心の傷だ。


だからこそ、あたしは"約束の地(カナン)"で"お試し"を始めた時から思っていたんだ。


あたしだけは、玲くんをフらず…

玲くんにフって貰おうと。


思い切り遊んで愉しんで、玲くんにとってあたしとの"お試し"が恥にならない…いい思い出となった後、玲くんに…人生初の"フる"という行為をさせて、過去のトラウマから解放させてあげたかった。


そのトラウマがある限り、何だか玲くんはこの先、彼女を作らない気がしたから。


玲くんには幸せになって貰いたいんだ。


玲くんは、"フられる"ような男じゃない。


もっと自信をもって、羽ばたいて貰いたいんだ。


ようやく引き籠りを解消して、紫堂の次期当主になったのなら、尚更のこと…。


「僕は…別に"ふられた"ことは気にしてないし、そんなことで、同情を君に求めていないからね」


玲くんははっきりとそう言った。


「僕だって男だ。僕が夢中になれる程、その相手に僕自身が酷く執着心が芽生えれば、僕だって人並以上の幸せ噛みしめたいし、彼女が益々綺麗になって喜ぶ顔みたい。別に彼女を作っていなかったのは、恋愛が怖いからじゃないんだ。むしろその逆」


恋愛に淡泊だと宣言していた玲くんは、本当は夢中になれる恋愛をしたかったのか。

やっぱり、トラウマを抜け出したいんだと…あたしには思えたんだ。


「ねえ…。僕が、夢中になれる相手と、"永遠"に寄り添いたいと願うのは、何も不思議なことじゃないだろう?」


訴えかけるような鳶色の瞳。


その通りだと思う。

そしてそれはあたしの願うことでもある。


「そうだね。あたしもそういう夢中になれる恋をしてみたいし、諦めて我慢ばかりしていた玲くんに、そういう"運命"の相手が早く現われて欲しいと心から思う。というか、玲くんならきっと現われるよ!!!」


そう微笑んだら…


「さすがに――堪えるね」


玲くんが、辛そうに…目を細めた。