「………。ねえ、芹霞…」
レバーから手が離れたと思ったら、あたしの頬に玲くんの指が触れ、するりと撫でられた。
「……? 危ないよ、玲くん手を放しちゃ…」
憂えた端麗な顔がこちらを向いていた。
鳶色の瞳が、哀しげに揺れ…あたしの心がきゅうと音をたてる。
あたし、玲くんにこんな顔をさせる、"酷い言葉"を吐いてしまったんだろうか。
"今は"彼女"だもんね"
え?
違った?
"お試し"…って、疑似"彼女"だよね?
今もあたし…"彼女"でいいんだよね?
必死に考えていたら、玲くんは静かに口を開いた。
「僕…誰にでもこんなことしてるんじゃないからね? 自分で連れて行って、お店で買い物したのは芹霞が初めてなんだ。そうした"彼女"は、君が初めてなんだよ?」
あたしは"彼女"でいいみたいだったけれど…玲くんの台詞は、凄く意外なものだった。
「玲くんなら、彼女さんに強請(ねだ)られるまま、色々な場所に連れて行ってあげて、好きなもの買って上げているかと思ったよ。勿論センスいい玲くんの好み仕立てでね」
素直にそう言ったら、端麗な顔がますます曇る。
正直、焦る。
あたし、何か口にすればする程…玲くんの機嫌を降下させてないだろうか。
「誕生日だからと強請られて…お店から取り寄せたことはるけれど、実物を自分の目で事前に確かめに行ったことは無いね。後で見せられて、初めてこういうものだったのかって判るくらいで。
ましてや僕の好みで、その場で相手を飾るということはしたことがない。
いつもいつも言われるがまま。
前に言ったかと思うけど、僕は…相手にあまり執着が無くて、淡泊な付き合いだったんだ。だから…長続きしないでふられちゃうんだけどね」
自嘲気な笑い。

