「なあ玲…」
煌が身を屈めながら、僕に聞いてきた。
「そんなに沢山指動いて、全部のキー押してるように見えるのに、押してねえのもあるんだな」
僕は純粋に驚いた。
「え? 見えるの、僕押しているキー」
「俺、目だけはいいんだ。特に動いているもんについては、緋狭姉に嫌っていう程鍛えられたし」
「…頭は悪いけどな」
久遠の本当に小さい呟きにぴくりと反応するあたり、煌は耳も凄くいい。
ワンコ…。
いやにしつこすぎるワンコの意味…。
もしや…パターンを見つけられるキーパーソンが煌?
「煌、僕が押してないキーはどれだ?」
すると煌が指差しながら言った。
「3hbpczsu1…ええと、次はオタマジャクシみたいな…」
「オタマジャクシ?」
由香ちゃんの怪訝な声。
「ほら、点書いて下がにょろっと」
「にょろ?」
皇城翠の声。
「カンマのことか? 数字の桁区切りに使われる…」
三沢さんの声に、煌がそうだそうだと喜んだ。
「そのカンマの次が、fv…次は…んんと…」
最後が小さくて何を言ったのか判らなくて。
「へ」
「へ? 平仮名かい?」
「おう」
「…のはずはないな」
三沢さんの声。
「半角状態でキーを叩いているし、何よりそのキーボードには平仮名表記はしていない。だったら…ハットマークか? への小さい…」
「そうそう、小さい"へ"だ」
久遠と思われる、大仰な溜息が聞こえた。
「如月。お前の知識のなさの解釈に、無駄に時間がかかるから、紙に書け」
久遠が紙とペンを渡したようだ。
音からすれば、煌は素直に該当キーを紙に書いたらしい。
「3hbpczsu1,fv^-jn]/m78ol.\」
由香ちゃんが読み上げてくれた。
「この早さで物を認識出来る動体視力があるというのに、読解力がないとは何と嘆かわしい…。何と残念な奴だ」
心底憐れんだような、蓮の声が聞こえてきた。

