シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


レバーを実際に握っているのはあたしだ。

玲くんはただあたしの手を触っているだけの図だ。


危険だ、危険すぎる。


そう訴えているのに、玲くんはにこにことして全然手を放す気配はない。


逆にあまり強く訴えると、玲くんの笑顔が"えげつ"なくなり、痛いくらいに力を入れられ、指が反乱起こしているようにもぞもぞと動く。


もう…いいや。


玲くんが元気で、事故がないのが一番だ。

うん。こんな状態でも、玲くん運転上手いし。


多分ドキドキしているのはあたしだけだろう。


蒼生ちゃんの作ったドレープのシャツは襟ぐりが大きい上、玲くんが運転する度にさらさらと優雅に揺れ、玲くんの意外と逞しい…鎖骨辺りをあたしに魅せつける。


特にバックをするのに、身体を捩って首元をこっちに向ける時なんて、視界に入る"それ"と、漂う色気に…ドバッといきたい鼻を抑える為に、目を瞑ってぶつぶつ念仏を唱える羽目になる。


玲くんの表情は――

優しげであり…涼やかだ。


"意識"しているのはあたしだけで、玲くんには変化がないから、悔しさも混ざってくる。


綺麗すぎる横顔が、恨めしい。



本当に――

玲くんは、何が本当の玲くんが判らない。



あれから、"デラ=シハカ"の2階で、店長さんのご厚意で…化粧をさせられたあたし。弥生が施した合コン用の化粧とは違い、やはりプロのメイクは…使っているものが違うのか、貧弱な素材は同じでもモデルになった気分になるから不思議だ。


可憐な服のイメージに近付いたような、自惚れたような錯覚がおきてしまう。


いや、判っていますから。

土台が変わった訳じゃないし。



ただ願わくば…


――芹霞、ごめん。今、僕に話しかけないでね。


あたしの…化粧出来たてほやほやの顔を見るなり、くるりと背を向けてしまった玲くんが、


――一段と愛らしくなり、随分と高揚なさっているようですわ、"彼"。余程溺愛されているのですね、羨ましいですわ。


深呼吸していていたのは、拒絶ではないと思いたい。


だから決めつけた。


うん。


玲くんは、照れ屋さんなんだ、と。