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ゆらゆら…。


体が揺れている。


まるで水辺に浮かんだ小舟の中にいるように。

揺蕩(たゆた)うように、僕は揺れる。


ゆらゆら…。


このまま…

僕は揺られて何処にいくのだろうか。


忘却の彼方に行き着けたのなら。

辛い現実から…逃げることが出来るのなら。


ゆらゆら…。


だけど、それは駄目だ。

僕は逃げては駄目だ。


これは…僕がすべきこと。

僕が拗らせた2人運命は、僕が直さなきゃ。


ゆらゆらゆら…。


芹霞…。

櫂…。


脳裏に浮かぶ2人の笑顔が、揺れて泣き顔に見えてくる。



ゆらゆらゆら…。


一際大きい揺れ。



僕の体は衝撃を受けて――。



「―――…。

夢……か?」



見慣れぬ白い天井が、ぼんやりと目に映る。


外郭が滲んで見えるのは…僕が無意識に流した涙のせいらしい。


帰ってきたんだ、現実に。

辛い辛い…現実に。


僕は暫く、両手で顔を覆って、落ち着かぬ呼吸を繰り返した。


重い上半身を起せば、胸に鈍痛を感じる。


それでも…僕の心臓は生を刻んでいる。

乱れながらも、しっかり…僕の心臓は回復した。


しぶとい…僕の心臓。

すぐ壊れてしまえたのなら楽だったのに。


「ああ…駄目だ。逃げることばかり考えては」


自嘲的な笑いを僕は浮かべた。