シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

 
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優雅な車体を持つ、高級ボンドカーは滑らかに東京を走る。


何処に向かっているかは判らないけれど、玲くんに迷っている様子はないから…一応、目的地には向かっているのだろう。


玲くんが運転している場面はあまり多く見たことはないけれど、それでもいつも、無駄なエンジンをふかさないし、車線変更や停止もスムースだし、震動がない丁寧な走り方や、何より同乗者を安心させられる運転が出来るということは、ボンドカーの高性能さはどうであろうと、玲くん自身の運転技術は上手いのだと思う。


やはり玲くんは多才だ。


優雅で綺麗で優しい玲くんは、女装すれば何処までも美女にしか見えない中性的な顔立ちをしているけれど、運転している姿は…何処までも"男"だ。


蒼生ちゃんが作った、モデルさんのような格好いい服装のせいじゃない。

玲くん自身が"男"なんだ。


そんな玲くんと2人きりのドライブは、何故か緊張する。


玲くんだけど玲くんじゃない別人と、2人きりで密室にいる感覚。


嫌では決してないんだけれど…妙に息苦しいんだ。


玲くん自身は、あたしにとって"落ち着く"はずの人なのに、いつものように世間話をしていても…妙に心がそわそわして落ち着かなくなる。


この感覚は、"約束の地(カナン)"で"お試し"をしていた時の、妙にドキドキしていた時と凄く似ている。


多分、あたしは…玲くんを異性として意識しているんだ。


何て…単純なあたし。


その上に…此の手。


玲くんが恋人繋ぎが好きなのはよく判ってる。

車を運転していれば、恋人繋ぎが出来ないのもよく判っている。



「玲くん…やっぱりさ…」

「ん?」


シフトレバーの上に置かれたあたしの手。

その上に置かれた玲くんの大きい手。


玲くんはあたしの手ごと、レバーを動かす。

動かさない時は、ずっとナデナデしている。


「運転に邪魔だよ、あたしの手」

「邪魔じゃないよ」


そうしてまた、あたしの指と指の間に、覆い被さるようにして玲くんの指が滑り込む。