「……手強いな」


そんな舌打ちが聞こえてきて。

あたしが聞き返そうとた時、玲くんは項垂れていた。


「玲くん?」


すると玲くんは顔を上げ、端麗な顔をそれはそれは寂しそうに歪めさせて、無理矢理に笑いを作った。


「そんなに嫌なら…いいよ。

僕…1人寂しく、前の席で運転するから…」


そしてまた顔を伏せ…とぼとぼと、それは力なく…運転席に戻ろうとする。



やばっ。

玲くんを元気づけるはずが、あんな顔をさせたら駄目だ!!!


あたしには、玲くんの未来の恋人よりも、今の玲くんの方が大切で、何より誰より玲くんを優先にしないといけないじゃないか。


それじゃなくても玲くんは、立て続けの発作で苦しんでいるんだ、こんなことで玲くんに無駄なストレス溜めさせてどうする!!?


玲くんが笑顔を、あたしが守らないといけない!!!


「玲くん、乗る。あたし助手席に乗りたい!!!」


手を上げてそう言ったら、


「本当?」


それはそれは、嬉しそうに…綺麗に優しく微笑した。


まるで蕾が花咲く、"ふわり"とした瞬間のように。


匂い立つようなその香しい色気に、思わずあたしは鼻を抑えれば…


「芹霞。今日は…鼻血は禁止ね」


そう言うと、あたしのおでこにちゅっとキスを落として、にっこり笑った。


「駄目だよ、我慢してね」


ちゅっ。


おでこに連続、完全不意打ち。


あたしの動きは固まってしまう。


ど、どうした玲くん?

甘いぞ、目茶苦茶甘くないか!!?