「さあ、じゃあ使わせて貰おうか。移動時間が短縮出来るのはありがたいし」
玲くんが微笑んだ。
確かに公共機関を使ったら時間はかかるけれど…あたしとしては、女の子達の嫉妬と羨望の眼差しを受けずに済む方がありがたい。
かつて神崎家にて、見るも無惨な姿に変貌した青い車体は、以前のような品格を見せてぴかぴかだ。
まるで玲くんのようだ。
そういえば玲くん、蒼生ちゃんの言われるままに、凄い金額を振り込んだんだっけ。
小猿くんの代わりに。
どうしているかな、紫茉ちゃんと小猿くん。
会いたいけれど…玲くんすら連絡がつかない状況になっていると言う。
だけど絶対会うんだ。
会いたいんだ。
そう思いながら、いつものように後部座席のドアに手をかけようとしたら、玲くんに腕を引かれた。
「言ったでしょ、芹霞。
君は助手席。助手席以外、僕は乗せる気はないよ?」
優しい玲くんが、今はちょっと強気だ。
玲くんが真剣に…拗ねている…みたいだった。
「え、だけど…」
玲くんが拘る"彼女"の定義。
玲くんは以前、彼女以外の女を助手席には乗せないと宣言した。
その玲くんが、あたしに助手席に乗れという。
即席"彼女"のあたしを"女性"として丁寧に扱おうとしてくれているのは嬉しいけれど、そんなことをして、優しい玲くんの…未来の恋人に対しての真心を穢してはなるまいと、それだけは遠慮させて欲しいと懇願したら…
「芹霞。君は今、僕の彼女なんだよ?」
凄くはっきりと、玲くんは言い切った。
「それでも、やっていいこととやって悪いことが…」
あたしは、玲くんに綺麗で居て貰いたいんだ。
玲くんは女ったらしではないから。
"恋人"に対して誠実で有り続けようとしているのが、恋愛経験がないあたしでさえよく判るから。
だったら、そのままの玲くんでいて貰いたい。

