シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


本来なら、俺は玲を守るべきだろう。

俺の肩書きは次期当主の護衛なのだから。


だけど…玲も判って居る。


俺が今までしてたのは、"次期当主"の護衛ではなく…"櫂"の護衛で。

そこには肩書きの強制力は何も無く、互いの信頼関係だけで成り立つもの。


俺と玲に信頼関係が成り立てば、俺だって玲の、玲だって俺の護衛につく。


肩書きなんて関係ない。

立場が逆になっても、俺と玲は…いつもと変わらない。


互いを信じる心さえあれば、身分が変わっても…何も変わらない。

それを強要することが無意味だってこと、互いに判っているから。


それが俺達の関係。


小猿が起きる気配は一向になく、俺は担いだまま想念に入る。


ゆらゆらと揺れる炎を思い起こす。


灼熱の炎。


それは緋狭姉の創り出す炎の模倣だけれど。


俺には…それで十分。

それ以上の炎を望むことはなく。


少しでも…緋狭姉に近づけるように、そればかりを願うだけ。


体から、逆流するかのように迸る力。


想念が現実化する。

炎が具現化される。


地を縦横無尽に走る炎は、屍達を捕えた。


竦んだように動きを止めた屍。

惑ったように逃げ出す屍。

泣き叫ぶように…低い唸り声をだす屍。


どれもが示す、"恐怖"の体現。


"心"などなくなったはずの屍が、感じる恐怖とはどんなものか?

恐怖を感じているのは、"心"なのか?


何1つ判らぬまま――

全ては…燃え尽き、灰となる。


一度灰になって蘇った屍は、

二度目の荼毘に付される。


まるで、時が逆回転したかのように…それは本来、あり得ぬ時間軸。

不可能なことが罷(まか)り通る現在、やはり異常なんだろう。


それさえ…驚かなくなってきている俺は、既に異常者なんだろうか。


赤色が完全に消える間際、不意に視界に入ったのは黒の輪郭。


見間違いかと思って空を見上げた。



「な、何で此処にも黒い塔があるんだ!!!?」


間違いねえ。

不可解な音波発する、天敵のような塔。


「それともあれは、"深淵(ビュトス)"の…?」

「あれとは違う。…東京で出現していた黒い塔と同じだ。同じく…突然、"生えた"」


玲も塔の存在は知っているらしい。