本来なら、俺は玲を守るべきだろう。
俺の肩書きは次期当主の護衛なのだから。
だけど…玲も判って居る。
俺が今までしてたのは、"次期当主"の護衛ではなく…"櫂"の護衛で。
そこには肩書きの強制力は何も無く、互いの信頼関係だけで成り立つもの。
俺と玲に信頼関係が成り立てば、俺だって玲の、玲だって俺の護衛につく。
肩書きなんて関係ない。
立場が逆になっても、俺と玲は…いつもと変わらない。
互いを信じる心さえあれば、身分が変わっても…何も変わらない。
それを強要することが無意味だってこと、互いに判っているから。
それが俺達の関係。
小猿が起きる気配は一向になく、俺は担いだまま想念に入る。
ゆらゆらと揺れる炎を思い起こす。
灼熱の炎。
それは緋狭姉の創り出す炎の模倣だけれど。
俺には…それで十分。
それ以上の炎を望むことはなく。
少しでも…緋狭姉に近づけるように、そればかりを願うだけ。
体から、逆流するかのように迸る力。
想念が現実化する。
炎が具現化される。
地を縦横無尽に走る炎は、屍達を捕えた。
竦んだように動きを止めた屍。
惑ったように逃げ出す屍。
泣き叫ぶように…低い唸り声をだす屍。
どれもが示す、"恐怖"の体現。
"心"などなくなったはずの屍が、感じる恐怖とはどんなものか?
恐怖を感じているのは、"心"なのか?
何1つ判らぬまま――
全ては…燃え尽き、灰となる。
一度灰になって蘇った屍は、
二度目の荼毘に付される。
まるで、時が逆回転したかのように…それは本来、あり得ぬ時間軸。
不可能なことが罷(まか)り通る現在、やはり異常なんだろう。
それさえ…驚かなくなってきている俺は、既に異常者なんだろうか。
赤色が完全に消える間際、不意に視界に入ったのは黒の輪郭。
見間違いかと思って空を見上げた。
「な、何で此処にも黒い塔があるんだ!!!?」
間違いねえ。
不可解な音波発する、天敵のような塔。
「それともあれは、"深淵(ビュトス)"の…?」
「あれとは違う。…東京で出現していた黒い塔と同じだ。同じく…突然、"生えた"」
玲も塔の存在は知っているらしい。

