「気をつけろ!!!」


屍が飛び跳ねながら、俺達に襲いかかる。

先陣を切ったのは、玲。


一閃。


鮮やかな程すっぱりと…屍の上下をぶった斬った。

重そうな剣を片腕で軽々と。


聞けば櫂の剣だという。


顕現…出来るんだ、やっぱ櫂も。

少しだけ…優越感が傷つけられ、ショックだったりする。


目の前では、玲が涼しい顔をして、軽やかに剣を振る舞う。


女装も似合う白い王子様は、剣もお得意らしい。

見映えする剣の形(かた)。


模範演舞のように、優雅で上品で美しく。

何をやらせても気品溢れる王子様。


だけど。

切られたものは、どこまでも…残虐な形骸。


躊躇いなく、戸惑いなく。


白い王子様は、電光石火に大量の屍を捌く。

美しい顔をして、艶やかな姿で…容赦なく剣を振るう。


儚げで優しげな美貌と、雄々しい剣捌き。


その矛盾こそが、玲の特質。

誰も真似が出来ない、玲だけの個性。


思わず見惚れて魅入ってしまう。


こいつ、凄えなって。


「煌…見てないで手伝えよ。何ぼさっとしてんだよ!!」

「いや…玲が全てやりたいのかと…」

「人任せにすんなよ。武器はお前の専売特許だろ!!?」


そして。


「偃月刀の出番じゃないね。逃げてるはずの屍に、闘争本能に火でもつけちゃったのか…多く集まってきた。相手してる時間はない。

煌、炎を向けろ。屍は…炎の記憶があるのか、炎を嫌うらしいから」


死んだモノに、記憶や恐怖なんてあるんだろうか。

そんな疑問も湧いたけれど。


「了解」


玲が武器を使って、俺が力を使うなんて…いつもとは逆だ。

だけどたまにはそれもいい。


「炎を具現するまで、守ってくれよ、王子様?」

「判ったよ、お前の護衛してやるよ」


目を瞑った俺は、玲の軽やかな音を聞く。

リズミカルなその音は、聞いていても爽快で。


玲に守られているその立場は、擽(くすぐ)ったい心地がする。