――――――――――――――――――――――――――――……


「結構来たけど…櫂も芹霞も見つからねえな」


どうも櫂の気が掴みにくい。


芹霞の気も同様、あることは間違いねえけれど、空気を掴むように…ふわふわとした感じで特定出来ねえ。


その感覚は玲も同じだったようで。


「2人の気を攪乱されているな。方角はこっちでいいと思うんだけれど」


そして、警戒に鳶色の瞳をすっと細めた。


「煌、敵のお出ましだ」


漂う瘴気と、腐臭。


がさがさ…。

木の葉が揺れて、現われたのは…


「おうおう、これは…"生ける屍"か」


それはもう…馴染みとなってしまった異形の群れ。


此処に至るまでに、玲から色々と聞いた。


"約束の地(カナン)"には…蛆、蚕、蝶、スクリーン、虚数…S.S.Aを模倣したような瘴気のオンパレード、制裁者(アリス)、久涅、黄色い外套男も居るとか。


黄色い外套男…。

脱落した俺の代わりか、それとも俺がそいつの代わりか。またもやオリジナルは別に居て、代わりは他にもわんさかと居るのか。


いまだ、何故俺があんな役目をしていたのか判らねえ。


此の地の外套男は、首を刎ねていた俺とは違い、目を抉ろうとしているらしいが…なんと機械の体を持つ、人造人間(サイボーグ)もどきらしい。


更には、裸足とオッドアイを持つという…式神のような偽者が現われ、口から吐いた蚕から、蝶の羽根を持った遠坂が生まれたという。


そんな想定外なことをしでかす、奇天烈なものに比べれば、蘇った"約束の地(カナン)"のゾンビは、なんて可愛いモノか。


食らうだけの奴らは単調すぎるから…逆に安心出来る。


人型の輪郭を崩した、腐敗した体。

"食らう"本能のみに生気を注ぐ、既に滅び去った存在。


俺はそいつらを視界に入れると、偃月刀を構えた。


「だけどよ。本当に…あのゾンビ共が復活…いてっ!!!」


やべ!!!

後ろから肩に噛み付かれ…





「紫茉~きび団子固ぃ~

…ふにゃふにゃ…」




「お前か、小猿!!! こんな時、寝惚けて噛み付くな!!!」


「朱貴ぃ~判った…よく噛む~…カジカジカジ…」


「いてえんだって、本当に食おうとするな、この凶暴猿!!! だからいてぇんだってば、歯をたてるなッッ!!!」


「切れないし、うまくねぇ…おえっ」


「そこまで不味そうな顔されるのも癪だけれど。ほら、起きろ、起きろ!!!」


背中をばんばん叩けど…。


「兄上…ぐすっ」


泣き声聞いたら…何も出来なくなっちまった。


仕方が無い、寝かしてやるか。


「何だか…屍達の動きがおかしいな。僕達を見つけて…というより、何かから逃げてるようだ。背中を向けてるあそこに、何かかがあるのか?」


玲が指差した場所に、俺は嫌な気を感じて、ごくりと唾を飲み込んだ。