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あの時――。



「5」



小猿の兄貴がカウントを始めたと同時。


究極の二択に、俺の頭が弾け飛ぶかと思うくらいに、兎に角深く深く思い悩んでいた時。


胃袋の底から酸っぱいモノが込み上げてきて、もう本当に気持ち悪くて仕方が無かったあの時。



『いい加減――


返事をせぬか、未熟者めッッッ!!!』



緋狭姉の声が心に響いて。



「!!!!!?」


幻聴!!!?



『この…駄犬がッッ!!!』



否。

この迫力は本人に、間違いねえ。


緋狭姉と…遠隔的に心で会話してる。


また出来るのか!!?

腕環…関係なかったのか!!?


緋狭姉…一体何処から!!?


此処で寝そべってる"ぐうた"…び、美女は、もしや本物の緋狭姉じゃねえのか!!?


『その"ぐうたら"は、真実私の肉体だ。その"ぐうたら"から意識を分離させて、お前に声をかけているのも、"ぐうたら"の本物だ』


やべえ。

"ぐうたら"から話そらさねえと。


ええと…。


ぶ、分離!!?

今、何処だよ、緋狭姉…。


『わざとらしい…。お前の心の声はただ漏れなのだ。まあよい。私が居るのは、人間で言えば深層心理の奥底。人に共通する…無意識領域内』


「はあああああ!!?」


『静かにせよ。お前や玲とて、行ったではないか』


俺は…

七瀬と潜った時のことを思い出した。


そして。


――肉体さえ元に戻れば…意識は還れる。


七瀬の言葉を思い出した俺。



緋狭姉、早く肉体に戻れよ!!



『戻れぬ』


緋狭姉はそう言った。



『少々此の場は厄介でな。ふさふさと言うべきか、わさわさと言うべきか…ふむ。とりあえず…鬱蒼と密集しておる』


それって、何?

その時、俺の頭には七瀬の兄貴の言葉が思い出された。


――呪詛を受けた身で、あれだけの瘴気に塗れた紫茉ちゃんの"混沌"に潜ったら、幾ら五皇言えど無事でいられるはずない。現に朱ちゃんとて、紅皇をつれられないまま、戻らざるをえなかった。


囚われてる、のか?


その…"ふさふさ"だか"わさわさ"だかに。