「ななな、何で逃がすんだよ、久遠!!!」

由香ちゃんが騒いだ。


「あれは…捕えても意味がない者だ」

「だけど蓮を殺そうと「意味がない」


久遠のぴしゃりとした言葉に、由香ちゃんは押し黙った。


「久遠は、あの男の正体に気づいたのか!!? あれは誰なんだ、久遠!!?」


僕は思わず、焦ったように聞いてしまった。


「紫堂玲…。

力を使いながらそんなに叫ぶ元気があるのなら。

せりと…あの馬鹿を…

探しに行け…」


久遠は、煩そうに眉間に皺を寄せて目を閉じて、そう言った。


「だけど!!! 久遠の傷は深いんだ。せめて血を止めないと…」


「オレなら大丈夫だ。オレは回復術はないが…この特殊な土地がオレを簡単には死なせない。

だけど、せりとあいつは違うだろう?」


向けられたのは、心に突き刺すような…瑠璃の瞳。


「"約束の地(カナン)"に悲劇はもう要らない。


オレはせりの屍を見るのも…

せりの泣き顔も…見たくない」


その悲壮感漂う声色に…

僕は…ぐっと言葉を詰まらせた。


「久遠様がそう仰ってる。早く行け」


それは蓮の声で。


「お前の結界のおかげで、血の勢いは止ってきている。

命に関わることはない。

あとは応急処置をするから心配ない」



蓮は、いつの間にか救急箱を持っていて。

隣には三沢さんが、ガーゼを大量に抱えていて。


「行けよ、『白き稲妻』。力がない者はない者なりに、原始的方法で知恵を振り絞る」

「うんうん師匠。ボク、必死に血止めするから!!! 文殊の知恵だ!!! 旭を見つけたら戻してよ。あの"しちゅ~"やクサを食べさせないと」


「!!!!!」


久遠の顔が引き攣った。


久遠も…食べたんだろうか。

あのゲテモノ料理…。