「それは――…
贖罪にはなりえない」
言霊のような強制力を持って、僕達の心に響き渡り…動くことが出来なかった。
かつて――…
悲劇で終幕することで、
自らの贖罪としようとした久遠。
彼を思い留まらせたのは芹霞の存在。
生かせたのは芹霞。
彼の中で、"贖罪"は…どう意味を変えたのだろうか。
そしてその単語を、黄色い男に向けたのは…何故なのか。
「禁忌を犯した罪は――
自らの生で償え」
禁忌?
「お前は"それでも"――
死んではいないのだろう?
ならば…生きよ」
久遠は何かを悟り、そして黄色い男に諭しているように思えた。
誰も動かない。
久遠の言霊に縛られて、動けない。
それに抗うように、
自らの音を奏でたのは黄色い外套男。
『ゅ……は…』
それは呼吸音か…言葉なのか。
僕には、ゆか、と呼んでいるように思えたんだ。
殺意よりも狼狽。
由香ちゃんの知り合い?
僕も、知っている奴?
そう思えば…
この男の視線を、僕は何処かで感じたことがあるように思えて。
何処だろう?
それを思い出そうとしていると、
「行け」
久遠は外套男にそう言った。
「"約束の地(カナン)"での命令権はオレにある。
此の地に一度でも足を踏み入れたのなら、お前はオレに従う義務がある」
久遠は…気づいたのか?
「オレに…言霊を使わせるな」
黄色い外套男の正体に。
「行け」
手負いの久遠は…王者のような圧を放つ。
誰も口を差し挟めない、緊張した空気が張り詰める。
これが言霊の力ではないとすれば…久遠の…生まれ持った王者の素質なんだろう。
男は…少しだけ躊躇う様子を見せたけれど、
ガッシャーーーン。
窓の硝子を破って外に飛び出し、消えたんだ。

