「ふうふう…。はい、師匠…。あ~よっこいしょっ」


由香ちゃんから剣が手渡される…丁度その時だった。


由香ちゃんと距離が縮まるのを嫌がるように…、

暴れるように放たれた男の手が、僕の心臓の位置にきたのは。


慌てて身を捻ったけれど、攻撃自体からは免れることは出来なくて。


鋼の重さが、僕の胸を直接叩いた。



「……うっ…」



普通なら、これくらいの打撃は耐えられる。


だけど今――

その重すぎる響きは…心臓に来る。


宥(なだ)めていた心臓が、その衝撃に目覚めようとする。



激しく――。



「は…っ……はっ」



乱れる呼吸。

乱れる鼓動。



体はくの字となり、床に膝をついてしまう。



「紫堂玲、薬を飲め!!!」


蓮の足音。

手渡される舌下錠。


震える手でそれを飲み込み、深呼吸をする。


収まれ。


「――…くも…」


収まれ、僕の心臓。



「…よくも、よくも師匠を…!!!」



それは初めて見た由香ちゃんの怒りで。



「由香、やめろ!!!」

「久遠、ボクだってやれば出来る!!!」


「由香!!!!」



僕に渡しそびれた剣を両手に持って、体重を乗せるようにして男に突き立てようとした。


久遠が止めに入ったが、僅差で間に合わない。


「!!!!?」


それは不思議な光景だった。


男は…素人女相手に、身動きしようとしなかったんだ。

まるで剣が突き刺さるのを待っているかのように。


…死刑を待つ、罪人のように。



「え!!?」



そして、思いも寄らぬ事態が起きたのはその時。



「久遠!!!!?」



久遠が――…


男に覆い被さるようにして、

背中に剣を受けたんだ。


男の代わりに――。