最初は、本当に久涅の偽者だと思ったんだ。
この世に…此処まで似ている者なんているだろうか。
まるで双子のようにそっくりな顔の造作をしていたけれど…よく見れば、若さも纏う空気も違った。
別者であることは判った。
彼は名乗ったけれど、心動かされることはなかった。
…だから何?
それが正直な感想で。
見知らぬ男から、知った顔で名乗られるのは、違和感を覚えさせる薄気味悪いものでしかないし。
また何かの怪しげな"偽者"かとも思ったけれど、あの類は、真実を判っている人に有効なものであり、もしオリジナルを久涅だとするならば、差違を見つけた時点であたしには無効になって。
もしもそれが"紫堂櫂"というものをオリジナルとするならば、生憎、紫堂櫂を知らないあたしには、惑う筋合いがない。
彼の何に対しての真偽を判定すればいいのか、その判断基準材料があたしにはなかったから、あたしはただ訝るしかできなくて。
殺気も敵意もないみたいだし、無害であるというのなら、そんな未知なる存在は偽者として無視しようとあたしは思ってた。
下手に関わり合って、また真実だの虚構だので思考が混乱するのなら、初めから…あたしの世界には、あたしが許容した人物だけを入れればいい。
その中に、彼は入らない。
だから…あえて無視をしていた。
その結果――
彼をよく知る久涅が、真実だと受容したようで。
司狼と旭くんを虚構だと看破し、無効化して人形に戻した久涅がそういうから、あたしの中で、見ず知らずの男は、紫堂櫂という名の存在(モノ)になった。
だけど、あたしにとってはただそれだけのもの。
彼は凜ちゃんだと言う。
彼は死んだはずの人間だという。
あたしの12年来の幼馴染だという。
彼が紡ぎ出す言葉は、不可解すぎたんだ。
ありえないことばかりを、本当の事のように言い出した。
大体、何であたしが、彼の幼馴染?
あたし、自分の幼馴染くらい判るよ。
何で12年の彼の存在をあたしが覚えてないって?
言いがかりもいい処だ。

