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「あたしのバッグ、あったあった…」


今までお話していた応接間。

片隅にひっそりと置かれた…持ち主に忘れ去られてしまっていた、可哀想なあたしのピンクのバック。


中身を確認したら、薬はちゃんと入っている。

よし、薬を届けに行こう!!!


バックの外側にあるポケットに、突き刺した状態のままの蓮の鏡。

これも持ち主にきちんと返さないとね。


そう思いながら部屋を後にするけれど…

1階がやけに静かすぎて、違和感を覚えた。


この屋敷はかなり広く、ゲストルームだけでも10部屋は優にある。


今は避難してきた遊園地来園者用に開放しているはずだから、もっとざわざわしていてもいいはずなのに。


しーんと静まり返っていて、人の気配を感じない。


傍にあるドアをこっそり開けて、ちらりと中を覗いてみた。


「………」


パタンとドアを閉め、また開けて覗いてみた。


居ない。


部屋はがらんと…もぬけの殻。


「このゲストルームは使ってなかったのかな?」


隣の部屋のドアも開けてみた。

その向かい側もドアを開けてみた。


とにかくドアを開けまくった。


しかし…誰も居ないんだ。


えええ!!?


残る部屋も、片っ端からドアを開けてみる。


だけど誰も居ない。


そして残る部屋は、久遠の部屋だけとなった。


遊園地化してから各務の家を取り壊し、この屋敷に住まうようになった久遠の部屋は、浴室を挟んで応接間と反対側にある。


部屋の内部から直接お風呂に入れるようになっている、面倒臭がりな久遠にとって好条件の位置配置。因(ちな)みに浴室と反対隣にある食堂にも、久遠の部屋から抜けることが出来るらしい。


金持ち坊ちゃまのリニューアルしたお部屋のドアは、素人のあたしでさえ高価だとわかるような、優美で繊細な曲線模様が彫られた…紅紫色のもの。

何でも外国からオーダーメイドしたらしい。

色だけ見ても、この屋敷に赤いドアなんて1つしかないから、何処をうろつこうと、とにかく視界に入る。

自己主張が激しいドアだ。


方向音痴のあたしには優しいドアで、それを中心にこの屋敷の配置を覚えることが出来たんだけれど。


久遠がこの赤いドアに拘ったと後から蓮に聞き…その理由を久遠に聞いたけれど、久遠は教えてくれなかった。