「旭と司狼は…不可思議な声を聞いてから変調をきたした。だから少し様相は違うのだろう。式使いと幻術使いが居るのか、同一なのか。
とにかく気をつけないと、誰かの記憶に足を掬われることになる。
今回は、紫堂玲の記憶が抜けていて助かったようなものだが」
更に玲くんは項垂れたようだ。
ヘリの中の偽クマ…クマの手足だったのにな。
あれが玲くんの記憶の再現なら、玲くんもふさふさはきちんと見ていたんだね。
あれだけリアルで本物みたいなクマの手足だったのに、毛がないイケクマの方が本物なんて。
もうそろそろ、毛が生えてくるかな。
イケクマをじっと見ようとしたら、玲くんが頭を少しこちらにねじ向けていて。
そしてまた、わざわざ視線を遮る位置に移動してくる。
玲くん…意地悪だ。
皆、イケクマを観察できるのに、あたしだけよく見れない。
あたしだって、イケクマの毛の成長を見たいのに。
そう思っていじけてたら…
「!!!?」
突然、玲くんに手を握られて。
何だ、突然?
驚いて離そうと思ったら、離れない。
益々力は強くなって、指を絡ます"恋人繋ぎ"。
同じ側の手だから、変形版だ。
"約束の地(カナン)"に来る前だったら、もう慣れたことだからと許容していたかも知れない。
だけど今は…状況が違うんだ。
玲くんは凜ちゃんに恋しているんだから。
玲くん…
そういうの、凛ちゃんにしようよ。
こういうのは、誤解されるんだよ?
見られたらどうするの。
自分で首絞めるんだよ?
ぶんぶんと手を振って外そうとしたけれど、力は益々強まるばかり。
指と指の間に絡まる玲くんの指が、痛いくらいに食い込んでくる。
まるで――
絶対離すまいとしているかのように。

