「ねえ久遠。偽クマと別れた後、黒い塔が出現してあたし達、屋敷に戻ってきちゃったけどさ…」
「何だ、嬢ちゃん!!! あの塔がKANANにまで出てきたのか!!? テレビ局なんてKANANにはないだろう?」
ちゃんとそうした記憶があるということは、やっぱりあのふさふさクマ男には間違いない。
「そうなんだよね。何か別の意味があるのかなあ。あ、そうそう、久遠。あのクマ、無事だと思う? かなりの衝撃で、木がばさばさ倒れたよね。もし無事だったら、あのクマとっ捕まえれば、何か判らないかなあ?」
「由香の偽者みたいに、変なモノ生み出される危険性を考えれば、わざわざ探し出して接触する方がリスクが高い気がする。
久涅がそのメモリを持っていたということは、オレ達が去った後、その偽者と何らかの接触はあったんだろう。生きているのか死んでいるのか…最後に知るのは、久涅だ。あの久涅が、真実を述べる可能性は低いが」
偽クマの消息は不明だ。
結局あの偽者は何だったのだろう。
何でわざわざクマの格好をしたんだろう。
どうして旭くんや司狼の時みたいに、あたしと久遠を同士討ちさせなかったんだろう。
役目が…違ったとか?
考え込むあたしの耳に、久遠の問いかけが聞こえてきた。
「紫堂玲。偽由香は裸足だったか?」
「ああ。だからおかしいと思ったんだ」
「では、そこまでは"再現"できないということか。複製(コピー)元の記憶が薄いのか、そこまでは複製する必要がないと判断したのか」
複製(コピー)?
「まず偽クマは、いくら蛆を弾く…浄化されたクラウン王子を被っていたとしても、直接裸足で歩けば意味がない」
「え? でもあのヘリの中で手足をちょんぎったのかもよ?」
「足が…泥に汚れていた。ということは、外を裸足で歩いて居て平気だったと言うことだ。つまり奇怪なモノに耐性がある」
はあ…。
「この屋敷は靴は脱がない。なのに偽由香は裸足だった。もしかすると…偽クマと同一の輩かもしれない。
紫堂玲。お前は由香がどんな靴を履いているか言えるか?」
「え? 由香ちゃんの靴?
……。
……?
……ごめん、記憶ないや」
「せりは判るか?」
「由香ちゃんは…スニーカーだよ、いつも」
しかも限定発売のレアものだと、何度自慢されたことか。
さすがの玲くんも、そこまでは知らなかったらしい。

