「そうだ、クマ。君は、オンライン電波に侵入してデータをリアルタイムで書き換えられる、唯一の非常識人、あの伝説のハッカーだったんだね!!? 

ボク、それを目指してハッカー齧り、挫折した過去がアリマス。どうあがいても、VTRしか書き換えは出来ませんデシタ。

今更ながら…お会いできてコウエイデス。ぺこり」


「いえいえ、こんないたいけな娘さんに、犯罪ぎりぎりの荒業させなくてヨカッタデス。

若かりし頃、ブラックリストに載って警察にもマークされたやんちゃな…不肖非常識人ですが、今後ともよろしくお願いシマス。ぺこり」


久遠と玲くんの隙間で、由香ちゃんとイケクマが、言葉尻カタコトの…挨拶を交わしながら、頭を下げ合っているのが見える。


案外ノリがいいクマは、アウトロー的な道では有名人だったらしい。

玲くんが特別驚いていないということは、既に承知していたのだろう。


クマの過去を知っている玲くんなら、クマがどんな"やんちゃ"だったか、知らぬはずはない。


「おお、そうだ、『白き稲妻』。お前さんのプログラム、ちょいと考えるところがあって一部改造させて貰った。これ」


クマが机に置かれていたものを手に取り、玲くんに見せる。

「この中身に入っていたプログラムが恐らく、虚数の元凶。感染源」


それは…ヘリの中で機械に刺さっていた、"32MB"と書かれたUSBメモリ。


「そのメモリの中身が? もしかして、久遠が僕に聞いてきた32MBの根拠って…」

「クマ。Zodiacの曲から虚数を取り出せること、知ってるな」


玲くんに答えず、久遠はクマに聞くと、クマは押されたように頷いたように思える。

「その容量はどれくらいだ?」

「あれは曲の中ではサイズは圧縮されて、CDとしての媒体の限界容量に収まるが、単独で取り出せばかなりの大きさになる。APEXで取り出した時は、3GBにはなっていた」

「つまり、Zodiacの曲から取り出した虚数は、32MBでは複製(コピー)出来ない。それなのにしているから、少し待ってくれと当然のように言っていた…ヘリの中のクマは、間違いなく…機械のことをよく知らない偽者だな。

扱っていたのは、32MBに収まるウイルスの注入。ヘリの機械を通して、遠隔操作していたといえる」


久遠はそれを疑ったから…すぐあの場から遠ざかり、玲くんの意見を聞きたがったのか。