しーんと場が静まり返っている。
ここまで言い切られると感嘆だ。感慨だ。
あたしは思わず、「ブラボー」と叫んでパチパチと手を叩いた。
「これは…クマだね」
目に映る姿はいまだ懐疑的だけれど、あたしの心がクマだと断定した。
残念すぎるイケクマ。
偽者の方が、もっとイケてるように…スマートに上手く立ち振舞うだろう。
わざわざこんなことは口に出さないだろう。
この飾り気ない…不器用にも思える無骨さが、逆に本物だと感じたんだ。
素の…"野生"に感じたんだ。
するりと、玲くんの手があたしの目から取れ、玲くんの大きな溜息が聞こえた。
続けて久遠のぼやきが聞こえた。
「阿呆クサ…」
いつの間にやら、久遠の鎌が消えている。
あんな大きいもの、一体何処に隠したんだろう?
「ある意味…その阿呆さ加減が決め手だな。まさか"本物"がこんなんだとは、偽者も思わなかっただろう。ヘリの中にいた着ぐるみ被った偽者の方が、まだまともだ」
久遠も、あたしと大体同じ理由で、このイケメンがクマ男だと断定したらしい。
「三沢さんが…美形だったなんて…」
玲くんの中でも、イケメン=クマ男になったらしい。
「心を許してたのに…裏切られた気分」
何がショックなんだろう。
美形同士しかわからない何かがあるんだろうか。
縄張り争い?
ずい、と久遠が前に出た。
「クマ、確認しておく。オレと会ったのは…」
「顔をあわせたのは今が初めてだ。お前さんは各務久遠だな。…KANANの美貌オーナーとして有名だ。俺は三沢玲央、よろしくな」
がはははは。
イケクマは豪快に笑う。
毛がないクマ…なんか寂しい。
浅黒いすべすべお肌。
多少ワイルドさはあるけれど、爽やかにも見えるあっさり感が物足りない。
早く生えてこないかな…。
ふさふさしてこないかな。
そうクマをじっと見つめていると、久遠があたしの目の前に移動した。
見えない。
クマの毛の成長を見れないじゃないか。
つんつんと服を引いて訴えたけれど、久遠はどいてくれない。
仕方が無く横からひょっこり顔を出して、クマを見ようとすれば、
今度はそちら側に玲くんが立ってしまった。
双璧に阻まれ、あたしの視界からクマは消えてしまう。

