冷てえんだ。
「兄上、兄……」
実の弟が泣きそうな顔でいるのに、それを完全無視して横を通り過ぎる様が。
こんなに温かみがねえのに、どうして他人から賞賛されるのか判らねえ。
兄貴を心から慕う小猿。
小猿の中で培ってきた兄貴像は、正反対のものなのだろう。
だから小猿は最初、こんな兄に豹変したのは紫堂のせいだと…櫂のせいだと思って攻撃してきたんだ。
小猿の言葉を信じるなら、2ヶ月前までは、誰もが褒め称えるという兄貴に小猿は可愛がられてきたはずで。
だけど今、その名残は無く、本当に可愛がられていたのか…小猿の言葉自体、懐疑的になっちまう。
弟を空気のように扱う兄。
妹を輪姦させようとした兄。
皇城の兄貴分は腐ってる。
兄貴は紫衣を翻しながら威風堂々たる様でこちらに闊歩してきて、一瞬…横たわる緋狭姉を見ると、嘲るように口元を歪めたんだ。
そして。
「我らに北斗の巫女は必要。
我の大いなる慈悲において、
その薬…寄越すならば…
お主達に選択肢を与える。
我は言葉を決して違えぬ。
それは皇城の名と身命に賭けて約束しよう」
そう口にして。
あくまで立場は上だとする…傲慢な態度。
流石は周涅の敬愛する上司だ。
「我が身可愛さに逃げ出す輩が多い中、捨て身で主君を救おうとしたその忠誠心、心打たれたのは事実。
それに敬意を表し、周涅が持ちかけた縁談を破棄する…と言いたい処だが、何分、紫堂当主が顔色変えて、結婚話を消さぬよう言ってきてな」
玲…。
お前今、必死にもがいているだろうに…櫂の親父、取り下げる気なんてないじゃねえか。
「紫堂次期当主が"中継"というもみ消せぬ手法に訴えたことで、皇城内部では恥をかかされたことに対して紫堂の取り潰し、又は紫堂に罰則(ペナルティ)をという声が多い。
しかし、結婚が急な話過ぎた故、見知らぬ女を突然宛がわれ…女をすぐ切れぬ次期当主の心、判らなくもない。
そこで、紫堂次期当主とお主達の意を汲み取り、そして皇城内部の反発を抑える為に…
形態を少し変えることにする」
それが意外だったのか、周涅が怪訝な顔を少し上げた。
「相手を皇城の娘ではなく――
北斗の巫女にする。
見知った女なら、
次期当主もやりやすかろう」
そう言ったんだ。

