「周涅…話が違うじゃないか!!!
紫茉を手に入れて…
何でワンコを切り刻むんだよ!!!
選択の意味ねえじゃないか!!!
紫茉は渡さないけど、ワンコを離せよッッッ!!」
「話? 意味がない? 嫌だなあ、翠くん。選択とは、強者が弱者をいたぶる"遊び"であって、弱者には元々選択権はないんだよ。
弱者が選択する権利を獲ようとするならば、それなりの対価を払って貰わなきゃ。
弱者が提供できるものがあって初めて交渉が実現する。
そこに至るまでの時間を早めるか、遅めるか。
結局は…結末は変わらないけれどね」
つまり…
元より選択の余地はなかったと、周涅は告げる。
「鼻持ちならぬ紅皇を仕留められる状況に居て、可愛い弟子達の犠牲で選択肢を上げるまで譲歩する周涅ちゃんって、優しいと思わない?
こんな目障りな女、ぶち殺したいの抑えてるなんて、凄く周涅ちゃん偉いと思わない?
慈悲深い紅皇職、周涅ちゃんに譲ってよ。周涅ちゃんの方がぴったりじゃないか」
反論しようとした小猿を制したのは、緋狭姉。
「お前に厄介がられるとは…私も出世したものだな」
笑いながら緋狭姉は立ち上がった。
その様は毅然としていて、その顔はいつものように余裕綽々とした顔なのに、身体が小刻みに震えている。
それは微細な動きだったけれど…
緋狭姉が隠しきれないダメージを負っているのを、多分誰もが見抜いている。
「紅皇、動けば――
こいつを斬る」
赤銅色の瞳は、黒い瞳を牽制するかのように、俺の眉間ぎりぎりに刃先を向けて。
俺は覚悟した。
偃月刀の威力は持ち主である俺が一番判っている。
その持ち主よりも強い男に、潜在能力を引き出されれば…多分俺は一振りで刻まれる。
いたぶることが目的の男なら、簡単には逝かせて貰えねえだろうけれど。
だけど俺の身体で時間を稼げるのなら。
どうか…
「緋狭姉、皆のこと…「お好きに?」
俺、皆のことを助けてやって欲しいって…。
俺に構わず、皆の救済を優先して欲しいって…。
「私は此処で見物していよう。
馬鹿犬を好きに切り刻んで、桜に与えよ」
「「「は?」」」
素っ頓狂の声を上げたのは、俺と桜と小猿だった。

