そこで部屋に入ってきた由香ちゃん。
状況と僕の表情で何が起きているのか察したようで。
芹霞をずるずると引き摺ってソファに座らせた。
嫌がる芹霞を見て、僕の心は悲鳴を上げた。
どうしてそんなに拒むの?
何度も想いを伝えては、僕は拒まれ続けた。
嘘でもいい偽りでもいい…そうして縋った結果がようやく"お試し"。
執拗に迫ってようやく"お試し"レベル。
そして――
"お試し"に対する意識が最初から違うのも判っていた。
少し受入れてくれたかなって思っても、一過性で終わらせられる僕の愛。
そんな程度にしか伝わっていない僕の想い。
――紫堂櫂を愛してる!!!
僕なんか…櫂と競える舞台に立っていない。
挽回したくて強行した今日の"お試し"。
"お試し"は暇潰しの遊びじゃない。
もっともっと深い意味があるもので。
僕にだけようやく貰えた特権で。
簡単になんて終わらせない。
終わらせるものか!!!
強張った顔をした僕も当然のように隣に座る。
僕は芹霞の隣に座りたいんだ。
僕は芹霞を隣に座らせたいんだ。
だけど、芹霞はそんな僕の心に気づかない。
僕に振り向きもしない。
笑顔を見せるどころか、
タオルで顔を隠して完全防御態勢。
偶然のフリをして、肩で芹霞の肩を軽く叩いてみた。
指先で…芹霞に触れてみた。
反応がない。
僕を見てもくれない。
こんな芹霞の態度――
僕が傷つかないはずはないだろう?
僕の手が小刻みに震えている。
何度も僕は芹霞の手を引き此の場から飛び出して、僕を見ろって叫び出しそうになるのを抑えていた。
だけど、今は…不可解な"約束の地(カナン)"の状況解明が先決で。
その為に此の地に来たんじゃないか。
耐えろ。
此処は耐えるんだ。
心臓が…苦しい乱れを奏でている。
気づかれないようにしなくちゃ。
「――というわけさ。ボクも吃驚したよ、まさかボクからボクが生まれるなんてさ…」
一通り説明を終えた由香ちゃんが苦笑する。
「司狼は?」
久遠の問いに、蓮が答えた。
「眠っています。余程酷い幻覚を見せられたのか、魘(うな)されながら。心配して旭がついています」
「幻術使い…か。幻の中、オレを殺したのは由香だったのか、それ以外の奴だったかは判らないが…。厄介だな、真実を確認出来る道具がなければ、仲間にやられる。同士討ち、だ」
久遠は溜息をつきながら、天井を仰ぎ見た。

