久遠の姿が見えなくなると、急に涙がぼろぼろと止らなくなってくる。
色々な想いが交差して、あたしの胸は破裂寸前だったのかも知れない。
何がどうとは説明出来ないけれど、思った以上に心はぐちゃぐちゃだった。
――せりがどんなに無様に泣き喚いたって外に聞えやしない。
ありがとう久遠。
本当にありがとう。
あたしは、湧き上がる不安と哀しみの奔流に身を任せるように、大声で泣いた。
◇◇◇
「――…ふうっ…。そこまで泣くのかよ。そこまで…ショックだったのか…せり…。そこまで紫堂玲のこと…? それとも、泣く程…オレが…嫌だったのか…?
初恋はオレだったなんて…1人で勝手に過去限定にして、今のオレには…嫉妬すらしてくれないのか…? どうでも…いいのか…?」
「むふふふふふふ」
「うわっ、何だよ、何処から現われた由香ッッ!!!」
「何でもないフリしたアダルトなアダルトな久遠くん。結構際どい処で我慢したんじゃないの~?」
「は、はあ!!? 何でオレが!!! な、何だよその目!!! あんなせりに誰が…」
「神崎に"初恋"って言われてボルテージMAXになって、1回だけでも思い出作りをしたいなんて葛藤してたろ~?
それに神崎、服着ていたとはいえ…シャワーかければ透けてたろ~? それで更に最後の最後までムラムラ来てたんじゃないのかね、久遠くん~?」
「だから!!! オレはせりが嫌いで…!!!」
「神崎の身体のラインがいいのは、服上から見ても判るものね~。剥いたら本気にぼんきゅっぼんなの、久遠くんなら最初から判っちゃってたんじゃない~?
"貧相"と言うのは、暴走しない久遠くんのおまじない。
まあ、神崎がどんな身体してようと~? 神崎だから、欲情したんだろ、浴場で。
むふふふふふ」
「………」
「そこは洒落に笑う所だろ!!!?」
「………」
「え、ゴ、ゴホン。神崎の服が気に入らなかったのは、『流行飛びつき隊』で師匠とのウエディングドレス変形版だったからだろ?」
「由香」
「何だい? 嫌い嫌いも好きのうちの、天の邪鬼な久遠くん」
「こうなったのは、
元を言えば全~部、お前のせいだ」
「は?」
そんな会話をしていたなんて露知らず。

