「だからせりは馬鹿だっていうんだよ。何でオレがせりみたいのを襲わないといけないんだよ。女に困ってないって何度言わせるんだよ。
オレは、何処ぞの飼い犬のように、盛ってばかりの男じゃない。
あんな発情犬とは場数の桁が違う。せりがどんな身体しているかなんて、服を剥がずとも一目瞭然だ」
「は、はあ……」
「大体オレは、ヤる前から見栄ばかり張って人を煽り、その癖手を出す素振りを少し見せれば、めそめそ泣いて拒もうとする女なんてウザすぎて抱く気なんかないね。ヤる気も失せる!! 泣くならヤッてる最中だけに啼け!!! 啼きすぎるのも鬱陶しくて萎えるけど」
「……さ、左様で」
流石は、経験豊富な久遠様でいらっしゃいます。
「勝手にオレを初恋にして、"初恋は特別だから"なんてせりは重すぎるんだ。そこまでオレに抱いて貰いたかったのか!!?」
「そ、そういうわけじゃ…。ふ、服…取られたからもう駄目だと…服…そういえば服取られたんだから、あたし今裸!!?」
きゃあああと悲鳴を上げて身体を隠そうとすれば、久遠に手で口を塞がれた。
「オレを犯罪者扱いするなよ、せり!!! よくよくそのでかい目で自分の身体をよく見てみろ!!! 視界に映るのは、服の下にある貧相すぎる身体か!!?」
よく見れば…服を着ている。
あたしはぶんぶんと頭を横に振れば、口から手を外された。
「剥ぎ取ったのはオレのコートだ。濡らされたらたまらない。せりの洋服なんてどうでもいいよ。むしろそんな汚い、趣味の悪いもの細かく切り裂いてやりたいくらいだ」
「じゃあ、何で久遠は上着脱いでそんな格好に…」
「オレだって、濡らしたくないんだよ、服!!!」
怒られた。
久遠ってそんなに服に執着する男だったっけ?
そう思ったけれど。
「せり。服を着ていても女は抱ける!!!」
威張られたら、もうどうでもよくなって。
久遠にとって服なんて…些細すぎることなんだろう。
何だかほっとしたら、涙が出てきた。
「せり」
また怒られちゃう。
びくりとしたけれど。
「浴室は防音加工。せりがどんなに無様に泣き喚いたって外に聞えやしない。泣いて叫んですっきりしたら…」
久遠はあたしを見た。
「隣の応接間に来い。逃げるな。
もし逃げようものなら…
今度は容赦なくせりを食うからなッッ!!!
どんな貧相で見るからに不味そうでも、嫌々渋々食ってやるからッッ!!!」
何だか自棄になって言われたような気がしないでもないけれど。
「わ、判りましたッッ!!!
逃げずに行かせて頂きますッッッ!!!」
その返事を聞いて、久遠は浴室から出て行った。

