あたしだって夢はあった。
久遠のお嫁さんになって幸せな未来を心に描いていた。
所詮子供特有の、単純で浅はかな夢。
恋だの愛だの…そんな純なる想いがなくとも、
こんな行為に及ぶ久遠が…哀しく思ってしまった。
久遠、凜ちゃんが好きなんでしょう?
嫌いなあたしにこんなことが出来る男なの?
身体に興味が持てば、男って皆そうなの?
「久遠…」
掠れた声が、名前を口にした。
「何?」
やはり掠れきったその声に、
あたしの目から一筋涙が零れた。
「あたしはね…
初恋は、久遠だったんだよ?」
初恋は、穢したくない。
間近にあった紅紫色の瞳が、
すうっと細められた。
「初恋は実らない」
震えているのは…あたしへの嘲り?
「だけど…叶えてやるよ、せり。
今、此の場だけ」
初恋は…永遠じゃない。
初恋は…運命じゃない。
神聖なものなんかじゃない。
「その初恋は…オレのものだ」
迫り来る紅紫色。
――…ちゃああん!!!
もう…駄目だ。
あたしはぎゅっと目を瞑った。
瞑った目から、涙が頬に伝わる。
耳に聞こえる衣擦れの音。
――…ちゃああん!!!
頬に添えられる、久遠の手。
そして――。

