噎せ返るような薔薇の匂い。


気づけば此処は浴室で。

肩から下ろされたあたしは、

ひんやりとした白いタイルに、乱暴に背中を押し付けられて。



「オレを夢中にさせてみろ」



そこにあるのは…

妖艶な紅紫色の瞳。


ゆらゆらと妖しげに揺らいで、あたしを惹き込むように誘う。


誰もが惑わせられる妖麗なその顔は、

気怠げな色気を伴って…

ゆっくりゆっくり美しい笑みを作る。



「もう…せりしか見えなくなるくらい、オレを狂わせてみろ」



紅紫色が攻撃的な色を持つ。

捕らえようとする強者の意思をそこに見て。


あたしは――

ぞくりとした震えを感じた。


逃げなきゃ。


防衛本能が警鐘を鳴らす。


心臓が狂ったように鳴り響く。



久遠なのに。

いつもやる気がないだるだるの久遠なのに。



未経験者のあたしだって判る。


これは久遠の欲情。


いつもあたしが覗いた時だって、無表情でへのへのもへじ女を抱いていたくせに、なんであたしごときに本気モードになるの!!!?


あんた、凛ちゃんどうしたのよ!!!?


嫉妬にとち狂ったの!!!?


言いたいことは山にあれど、怯えて震える唇からは言葉が出てこない。


ただ久遠を見ているだけで。



久遠の片膝が、がくがくするあたしの足を割る。

久遠の両手が、あたしの頭の両横につく。



ゆっくりゆっくり…。


久遠はあたしを追い詰める。


そして――



「見せろよ、せり自慢の…大人の身体」



あたしの服を剥ぎ取ったんだ。