「玲くん、こっち見て、声を聞いてッッッ!!!」


屍が壁となり、あたしの声は吸収されてしまう。


すぐにでも飛んで行きたいのに、行き着けない。


それはあたしだけではない。


屍に取り囲まれているあたし達は、その大量さに阻まれて、身動き取れない状態にまで追い詰められていた。

「何で…こいつらまで増えるんだよ!!! 報道陣やスクリーンと同じ原理か!!!?」


久遠があたしを片手で抱き、鎌を振るいながら叫んだ。


そう。


旭くんも凜ちゃんも頑張って屍を倒しているけれど、屍の数は増えるばかりだったんだ。

まるで増殖しているかのように、際限なく。


玲くんはすぐそこなのに。

玲くんは居るのに!!!


もどかしい!!!


炎は大きくなり…

火の勢はこちらにも向かってきて。


上空には火の粉。


逃げ場がない。

このままだと…

屍に火が移り、あたし達まで燃えてしまう!!!



久遠が上着を脱いで、火種を振り払おうとした時、


ぐああああああ!!!


「…え?」


突如、屍が呻いた声を出して揺らいだんだ。


無表情の…崩れた顔に浮かぶのは"怯え"。

恐怖の体現。


そして…

あたし達から遠ざかったんだ。


まるで…炎を恐れて逃げるかのように。


集団が…散っていく。

あたし達は…呆気にとられて立ち竦んでいて。


その時。


バリンと…

何かが割れるような音が聞こえた。


まるで、硝子が割れる音のような…。


「どうした、せり!!!?」

「音が…硝子が割れるような…」

「音なんて聞こえないぞ!!? 大丈夫か!!?」

『旭も聞こえない。せりかちゃん大丈夫?』


あたしを心配そうに覗き込む久遠と王子様。


突如…視界に影が出来た。


闇空を仰ぎ見れば――

空に何かが横切っていた。


暗澹たる漆黒に映える――

汚れた黄色。


ひらひらと襤褸布の端を風に靡かせ、

垣間見えたその横顔は仮面に覆われていて。


「黄色い外套男!!!?」


それが真っ直ぐ、

玲くんに向ったんだ。