気配に気づいた元天使達が、襲いかかってくる。
剥き出しの本能。
感じたのは――
戦慄よりも既視感(デジャブ)。
かつて何百以上もの…人外の存在となった"生ける屍"を相手にしてきた。
今更、何十もの屍が、食らい尽そうと襲っても動じない。
しかし…
体術でやりきるには辛い。
まだ…体力が上手く回復出来ない。
それは力を封じているからであり、結界さえ作れれば体力は回復出来る。
だが――
「凜、力は使うな!!!
嫌な予感がする!!!」
その度に久遠に制される。
微妙に変わった久遠の言葉。
久涅に正体がばれるから使うなと、そんな言い方をしていたのではなかったか。
「あの塔が…多分、力を吸い取る。
外壁は…トラペゾヘドロンだ」
俺の疑問に対する答えを久遠は口にした。
「あの塔に…無駄に力を注ぐな。
あれは…かつてのものよりも危ない」
よく見れば、"深淵(ビュトス)"の塔よりもシンプルな造り。
上に昇る螺旋階段はなく、上に突起がついているだけ。
何故、かつての"深淵(ビュトス)"に似たように塔が出現したのか。
そしてあの奇妙な外壁がなぜ此処でも使用されていたのか。
ああ――
来襲の屍の数は減じることがない。
クラウン王子も鏡も…
浄化の力は役に立たないらしい。
幻ではない故か。
それとも…
鏡の力も久遠の力をも超える、"幻"が放たれているのか。
だとしたら、お手上げた。
何を真実の拠り所としていいのか判らない。

