過去――
何度もこうした場面を目にはした。
飛び散る真紅の飛沫。
肉を食む咀嚼音。
魚の腸のような生臭さ。
そして鉄の臭い。
この…五感に訴える臨場感。
慣れるものではない。
目を瞑って呼吸を整えることが必要で。
そして俺は、隣でカタカタ震える芹霞の手を握った。
「……凜ちゃん?」
すぐ触れられる程、至近距離に居るのにな。
「あたしは大丈夫。
久遠の横行ったら?」
完全誤解している芹霞。
俺は静かに首を横に振る。
「優しいね、凜ちゃん…」
その微笑みは変わらないものなのに。
お前の心が…遠すぎる。
お前の口から、どうして俺の名前が出ないのか。
どうして感動の涙が出ないのか。
どうして…お前が"俺"を見つけれないのか。
色々言いたいことはある。
色々訴えたいことはある。
――芹霞ちゃあああん!!
かつて俺が唾棄してきたものに、絆の拠り所を求めるなんて愚の骨頂だと思うけれど。
そうしてでもして、何かに縋らねばならぬ程、切迫感が強いんだ。
かつてない程の、嫌な予感を感じるんだ。
お前が…居なくなってしまいそうな。
俺が俺で居られなくなってしまうような。

