ああ――。
電脳世界から取り入れた0と1を押し潰すまでの、虚数の圧感。
この塔から…
更なる虚数が沢山生じている。
出現したのは…
"約束の地(カナン)"という場所に意味があるのか?
それとも…
虚数を模倣して、虚数を消し去ろうとした僕に対しての、多勢による反撃か?
不安になる。
「芹霞……」
巻き込まれていないだろうか。
「久遠様がついて居る。心配なのは寧ろ…」
蓮は言いにくそうに、金の瞳を細めた。
櫂、か?
「"凜"も…久涅も帰ってこないのが気になる」
「凜?」
誰だろう。
「え、ああ…まあ、似た血だということで」
由香ちゃんが曖昧に返事をする。
凜…。
何だ、今。
何かに反応したように、脳裏に閃いた一瞬の映像は。
漆黒の長い髪を靡かせ…
鋭い眼差しをした…
「まさか…ね」
僕は何を考えてしまったんだ。
ありえないだろう、櫂の"女装"なんて。
第一櫂の矜持が許さないだろう。
今までとことん拒み続けてきたんだ。
「師匠…多分。
それ正解」
由香ちゃんは、八の字眉でそう言った。

