「もういっかい、作り直したの。ぐつぐつしたの~」
そう喜んで、ほかほかと湯気が立上る白濁した液体の入った皿を見せたけれど。
「凄い…匂い。
しかも…何、この…肉」
まず…。
シチューにこの匂いはありえない。
絶対ありえない。
そして皮がついたままのゴロゴロとした野菜は、まあ…いいとしても、輪郭が崩れた…この正体不明な肉は…一体何?
「ん~!!! 旭の大好きなお肉!!!」
回答になっていないところが、わざとぼかされたようで不安になる。
やばいぞ、これは。
口にしない方が身の為だ。
「レイくん、"あ~~~ん"」
「え?」
「レイくん、"あ~~~ん"」
突如外見にそぐわぬ怪力で、僕を押し倒した旭が…正体不明の白い"しちゅ~"というものを、スプーンで掬って、僕の口に押し付けた。
「要らない…僕、お腹空いてな「レイくん、"あ~~~ん"」
「ね、ねえ…旭。だから僕「レイくん、"あ~~~ん"」
鼻が曲りそうだ。
横目で由香ちゃんを見たら、気の毒そうな顔をしていて。
「回復するよ?
――多分?」
多分?
多分の可能性だけでこれ食べないといけないの?
「それ食べないと…クサ食べる羽目になるよ?
――多分?」
だから何、その"多分"は!!
「レイくん、"あ~~~ん"」
食べるなと頭の何処かで警鐘が鳴り響く。
僕は拒んだ。
とことん拒んだ。
「"あ~~~ん"」
ぶすっ。
そんな音がして…
「おいしい?
きゃはははははは!!!」
僕の口の中に、銀のスプーンがねじ込まれた。

