『判っていたんでしょう、玲くん』


芹霞は笑う。


『だから、"約束の地(カナン)"に来たくなかったんでしょう?』



どくん、どくん…。



『決断したのは玲くんだよ?』



どくん、どくん…。



『愛だ何だ言っておいて…結局はあたしを捨てようとしたんでしょ?』


違う。

違うんだ!!!


声が出ない。

僕の想いは言葉に出来ない。


僕は狂ったように首を横に振るだけで。



『泣いたって無駄だよ?

見苦しいだけ』


何でこうなった?

どうして僕は"約束の地(カナン)"に来た?


『だけどありがとう。

誰が大切なのか、思い出させてくれて』


僕が強引に進めた分だけ、凍り付いたその時間は。

今更、過去にも巻き戻しが出来なくて。


ああ、もし。

もしも時間が巻き戻せたのなら。


僕はこうしたBAD ENDを辿らせない。


どくん、どくん…。


未来にも進まなければ…

過去にも戻れない。


僕はこの辛い現実に囚われたまま。

身動きが取れないまま。


そこに居るのに。

すぐそこに、愛する女性がいるのに。


僕の心は伝わらない。

こんなに好きで仕方が無くて。


僕以上に君を愛する男なんていないのに。


言葉がなければ…心は伝わらないのか。

今まで僕が口にしたものも伝わらなかったというのなら。


僕はどうすればこの胸の内をさらけ出せるのか。


終わらせないで。

散らせないで。


僕はまだ…頑張れる。


目の前に漆黒の影が映った。


『玲』


櫂だった。

芹霞の横に、櫂が居た。


『俺の代わりに、芹霞を愛してくれてありがとうな』


まるで僕のこの熱い想いは、全て櫂のものであるかというように。

今までの僕の努力を、そのまま根こそぎ奪い取るかのように。


『流石は優しい玲くん。

いつもいつも…櫂を助ける"影"だものね。

あたしちゃんと受け取ったよ。

――櫂の心』