久遠の言葉に対する否定感は強い。


だけど考えてみれば――


玲くんに対して恋をしたと思ったのは、玲くんが身体を張った"危機的環境"。

そして久遠に対しても、木々が落下して死ぬかと思った"危機的環境"はある。


――せりは、"危機的状況"が無理矢理早めさせた鼓動を、心の動きだと錯覚しているだけだ。


だけど、だけどね。

あたしだって単純な馬鹿女じゃない。


好きになったら真剣だ。

余所見が出来る程あたしは器用じゃない。

そんなの、13年前に久遠は体感しているはずで。


――芹霞…君が好きだよ?

――ふらふらするな。



アタシガスキナノハダレ?



重い沈黙が流れる。


それを破ったのは、


「せり……」


久遠だった。


「せりが今オレに向けようとした心は…

せりの本当の心じゃない」


震えて聞こえるのは…

何故か動揺してしまったあたしの心のせい?



「そんなもの…オレは欲しくはない。

13年欲しかったものは…


そんなものじゃない」


何でそんな辛そうな顔をするの、久遠。

あたしは…そこまで久遠を傷つけてしまったの?


「オレが欲しいのは…」


暗闇の中、久遠の目が燃えるように赤い。

闇を押しのけて、紅紫色が存在を主張する。


「オレが欲しいのは…!!」


久遠の手があたしに伸され…あたしに触れる直前で止る。

躊躇ったかのように少し震え、きゅっと握られて制止した。



「もしも――…」


久遠は握った手に尚も力を入れながら、空を仰ぎ見た。


「もしも――

オレが必死に止めている"時間"を、

進ませる気が本当にあるのなら…」


そしてゆっくりとあたしを見た。


心に直接訴えるような…


「オレを――

2番目の男にするな」



悲哀に満ちた表情をして。