「せり、鏡は落とすなよ。鏡で身体を守れ」
そう言うと、久遠は飛び跳ね、木から木へと移動をした。
後にした木は音をたてて下に雪崩れ落ちていく。
軽やかで迅速な久遠の移動に、
木々の崩壊の速度は追いつくことなく。
その時。
流れ過ぎそうになった視界の中、
何か"物体"を見つけたんだ。
「久遠、ストップ、ストップ!!!」
あたしは久遠の背中をばんばんと叩いた。
「あった、あたしのバック!!!
玲くんのお薬!!!」
それは上の木の枝に引っかかっていて。
この暗い中、よく見つけたあたし!!!
あたしを褒めて上げたい!!!
「諦めろ。
今、そんなこと言ってられないだろ!!?」
後から、ばさばさと豪快な音がする。
「あそこにあるのよ、次に来たら何処にあるのか判らなくなる。
諦めたくないッッ!!!」
「馬鹿!!! 身を乗り出すな、せりッッ!!!」
「身を乗り出さなきゃ取れないの!!!
高いのよ、ちょっと踏ん張ってて!!!」
あと少し。
もう少しで。
ばさばさばさ。
音は大きくなってくる。
「せり、駄目だ!!!
後にしろッッ!!!」
「もう少しで…!!!」
「せりッッッ!!!」
指先が触れた…その瞬間。
「きゃああああ!!!」
木が激しい揺れに耐えきれず崩れ、あたしはその衝撃に、久遠の肩から滑り落ちた。

