「薬はまた後で取りに来よう。とりあえずは少しでも早く、紫堂玲に訊きたい」
クマ…。
あたしはクマ男に疑わしさなんて感じていない。
同じ戦地をくぐり抜けてきた同志。
何より玲くんが信頼しているのなら。
もし仮に――
クマ男が何かを画策している悪い奴であったら玲くんが傷ついてしまう。
あたしは、玲くんの傷つく処を見たくはないんだ。
きっとあたしの…クマに対する説明が下手くそだったせいだろう。
だから久遠の疑念を膨らませてしまったんだろう。
だったら、久遠の思い通りにさせて、少しでも疑心暗鬼な心を払拭させたい。
まあ…あたりは思った以上に暗いし、この中で口を閉じた鞄を見つけるのは至難の業だろうから、それなら一度屋敷に戻って、懐中電灯でも借りて、再度クマを迎えに来よう。
ごめんね、クマ。
誤解を解いてくるから、ちょっと待ってて?
そう、半分諦めムードで、クマ男に心に詫びている時、
ぴたり。
久遠の足が止り、あたしは顔を上げる。
久遠が何かを見つめているのに気づいたあたしは、そちらに視線を向けて…驚いた。
「何で――
電気がついてるの?」
辺りはもう真っ暗で、何があって電気がついているのか判らないけれど…暗闇に浮かび上がる無数の青白い光は、人魂のように異様な光景に思えた。
「遊園地での何かのイベント?」
「ナイトパレードのはずもないし、何より電気は…使えない筈なのに」
久遠の低い呟きが耳に届く。
「でもあれ…電気だよね? というかさ、なんか…円陣…組んでない?」
すると久遠は、その場で跳ねて…軽やかに街路樹に昇った。

