「その布1枚で、お前を見逃してやる。

だから――」



俺は――

首を左右に振った。



時間に反応した久涅。

何かが起るのだろう。


俺は、命と引き替えに…心は渡さない。

芹霞の心は奪わせない。


「そこまで…

拒むか、俺を」



久涅の声は抑揚がなかった。

まるで屈辱を感じているかのように、その唇がわなわなと震えている。


「こんなに頼んでも、

俺と同じ顔をした奴でさえ、

俺を拒むのかッッ!!!」


恫喝というよりは悲痛な叫び。


まるで共鳴のように心が痛んだけれど。


芹霞は渡さないという意思を込めて――精一杯の拒絶の証として、俺は頷いた。


冷たい空気が肌に纏わり付いた。


触覚で感じる久涅の感情。


悲哀。

絶望。

憤怒。

煩悶。


そのどの感情にも――

俺は心動かされなかった。


同情で芹霞を差し出すくらいなら、俺はとうに…煌や玲に芹霞を渡している。


だけど、出来ないんだ。


12年間の想いは大きすぎて熱すぎて、もう俺の隅々まで行き渡って。

どんなにしても諦められるものではなく、なんとしてでも手に入れたいもので。


――紫堂櫂を愛してる!!!


俺は――

芹霞を手に入れる為に全てを変えた。


芹霞から俺に向けられた心は、何一つとして…俺以外の奴にくれてやるわけにはいかない。


そんな半端な心で芹霞を想っているわけではないんだ!!!


例えその想いの為に――



「では――

"その刻"を待たず、

今すぐ死ね」



自らを窮地に陥れても。