何て確信はすぐに打ち砕かれたけど


「勝手に人を殺すなよ。ちゃんと血は通ってる」


とんとんと首の頸動脈を叩いた。 短い髪がピョンとゆれる


私はきっと微妙な表情をしていたのかもしれない。信平はゆっくり近づいてきて私の手を取った


「はい、頸動脈ちゃんと働いてるでしょ」


ドキドキした。
この距離に
つかまれた手が触れる首に
私は信平の笑顔をみたいと思った

きっと夏の暑さのせいだ

「生きてますね……確かに、なら何してんのこんなとこで」


こんな、薄暗くて誇りっぽいましてや幽霊が住み着いてるなんて噂がある2階準備室で


「涼んでただけだ、いつの間にか寝てたけど」


……なんて図太い神経の持ち主なんだろう。
無表情のまま信平は椅子に座り直した


用事も終わったし、私は帰ろう。
荷物を掴んで出口に近づく

「帰るのか?」


「長居する気もなかったし帰る」

信平はギイと音を立てて椅子から立った

「送る、暇だし」
暇だから送ってどんな理由?

とりあえず私は流れに任せて送ってもらうことにした


「家どこ」


「川の向かい……それよりアイス食べたい」


私たちは小さなコンビニに寄った。
私がアイスを2本買うと店員に不思議な顔をされたけど

「信平、アイス」


「ありがとう……えーっと……」
信平はアイスの袋を開けて私をみる

「あ、ちやこ」


名前聞いといて名前喋るの忘れていた


「ありがとう、ちやこ」
お店の前のベンチに座る
ゆったりとした時間。 シャーベット状のアイスは暑い夏のお供だ


私はカバンから小さなウチワを出してパタパタ扇ぐ


「使う?」


いつの間にかYシャツで座っていた信平にウチワをさしだす

「いらね」


腕まくりをした腕で顔に日陰を作っていた。
Yシャツ姿が似合う人に初めてあった気がする


「あれチャコ1人でなにしてんの?」


お店の前のベンチに座っていたら爽やか青年、渉君が自転車を押してきた
……1人で?

「渉君、今日ありがとう1人じゃないよ私。隣に……」


あれ?
さっきまで隣に座っていた信平がいなくなっていた


それどころかベンチには袋の開いてないぐっしょり濡れたアイスだけが置いてあった

「チャコ?」

渉君は私を不思議そうに見ていた。