とあるアイドルの恋愛事情 【短編集】

「おねぇ、明日のマキとの約束キャンセルせんか?」
 

ゆっくりさせてやりたいとか、そんな立派な感情があったわけやない。不純な動機。

その言葉の裏を読み、ゆっくりと頭の上で動かしてた俺の手を取って小夜は自分の唇へと近づけた。決してアイドル仲間には言えない、言いたくない秘密を俺らは共有してる。

そんな優越感。

「そんなに虐められたいんか?このM男め」
「あほか。どんだけ俺を啼かせたら気が済むねん、このS女め」
「わかってて毎回どこぞに引っ張り込むのは何処の何方さんやろぉなぁ?」
「佐倉さん家の涼君ちゃうか?たぶんな」

俺とこいつの間には、皆の前では決して見せない関係がある。プライベートなことは知らんけど、スッピンは何度も見たことがある。そんな関係。

グラスを傾けて液体を口に含み、今にも噛み付かれそうな指先でその唇を開いて1度俺の温度まで上がったその液体をそこに流し込む。

開かれたままの瞳は、やはり何も映してはいなくて。ほんの数センチ離れたところで作った俺の笑顔でさえも色を無くし、その瞳の中に吸収された気がした。

「明日休みやし、しゃぁないから1日付き合うたるわ」
「それは俺の台詞やからな」
「ホンマいつからこんな男っぽくなったんやか。可愛いだけやったのに」
「お前がしたんやろぉが。確信犯め」
「せやせや。忘れとったわ。マキに殺されるかもなー」
「あほ!言うなよ?絶対言うなよ」
「はいはい。わぁかってますって」

こんな時は、少しだけマキに対して後ろめたさを感じる。