「寝るならベッド行け」
「呼んだくせに」
「俺?呼んだっけ?」
「携帯鳴らした!」
「そうだっけ」

マグカップを2つガラステーブルの上に置いてソファーに腰掛け、彼女の頭をポンポンと撫でる。いや、叩く?どっちでもいっか。すると、半分閉じ気味だった彼女の目が開いてダルマ状態のまま俺の足元へと擦り寄って来た。

「ズボン履けって」
「寒いぃ」
「寒みぃから履けっつってんじゃん。腹冷えるから、ほら」

彼女の手に握り締められたまま役目を果たせないままでいるズボンを奪い取り、しきりに寒いと訴える彼女の足を突っ込む。漸く動き出した彼女は、もしもし亀サンと張るくらいのゆっくりとした動作でそれを上まで引き上げて両手を伸ばした。


…引き上げろってか。


1つため息をついてマグを置き、彼女をソファーの上へ引き上げてから彼女のお気に入りの赤いマグを手渡した。任務完了。よくやった、俺。理性の糸も太くなってきたもんだ。

「折角起きたんだしどっか行かね?」
「どこ?」
「んー、原宿とか?」
「人多いからヤダ」

ああ、そうですか。折角出掛けようかっつってんのによ。
 
その辺の若者とは違い、うちの彼女サンはかなりの出不精で。こうして誘っても快く出掛けてくれることはまず無い。それどころか、こうして誘ったこと自体に文句を言われることさえある。ほら、こんな風に…

「何でわざわざ人混みに出掛けようとするの?」
「たまには出掛けても良くね?」
「しょっちゅうじゃん。一昨日だって永久君と渋谷行ってたし」
「ありゃたまたまだって」
「オフの日くらいあたしだけのために家にいてよ」

まぁ…こんな風に可愛いこといっちゃったりするもんだから、怒る気なんて更々無いんだけどね。

「お前さ、マジで可愛いね」
「は?今の会話のどこからそんな萌えポイントを拾って…」
「お前が可愛いのが悪りぃの」
「答えになってないし」
「仕方ねぇから今日は1日お前だけの俺でいてやるよ」
「仕方なしかよ。まぁ、いいけど。取り敢えず紅茶淹れて?」
「はいはい」

自分でも呆れるくらいにコイツに惚れてて。何でも許しちまうのも、とどのつまり惚れた弱味。地球に優しい男は、彼女にも優しい男なんです。


そんな、とあるアイドルである俺の恋愛事情。