私が逃げる気を失うのとほぼ同時期に、篤郎は私を閉じ込めようとはしなくなったから、買い物にも行った。

 近所の人達や篤郎の知人と顔を合わせることもあったが、誰も私が陽子だなどとは気がつかなかった。

 人間の認識など、曖昧なものだ。

 多少、おかしいと感じることはあっても、私が朝子として振る舞い、篤郎が私を朝子として扱うと、人はそれに騙されてしまうのだった。

 私はむしろ陽子を知る人間と会うことを恐れた。

 幸い、朝子と陽子では生活範囲が違った。

 朝子からはみ出さないように暮らしていれば、まず平気だった。